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ウィザードブックシリーズ Vol.106

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わが子と考えるオンリーワン投資法

2006年7月12日発売
ISBN4-7759-7072-0 C2033
定価本体1,600円+税
A5判 ソフトカバー 238頁

編者 ジョン・モールディン
訳者 関本博英


目次 | 著者紹介 | 訂正  ◆立ち読みコーナー 訳者まえがき序文第1章 霧のなかの道標 (本テキストは再校時のものです)

わが家の「投資」家訓!

門外不出の投資の知恵
10人のプロが勧める「オンリーワン投資術」の最高のガイドブック!

 投資のビジネスはかつてないほど厳しさを増している。通信技術は目覚ましいス ピードで進展し、膨大な情報が急流のように押し寄せてくる。投資家がそうした情報 の波におぼれないで、真に必要なデータを入手するにはどうしたらよいのか。20年以 上にもわたって激変する投資の世界に身を置き、大きな成功を収めてきたこの分野の 著名なエキスパートであるジョン・モールディンは、実践的な経験に裏付けられた投 資ガイドというものの価値を十分に知り尽くしている。そうそうたるプロフェッショ ナルな投資家が勧める「オンリーワンの投資術」をまとめた本書は、まさにその名に 値する投資ガイドである。

 本書は巷にあふれているこうすれば儲かるといったたぐいの投資本ではない。モー ルディンの尊敬するプロたちが投資の本質について自由に語り、しかもすぐに実践で きる手法が数多く盛り込まれている。本書を読めば、自分自身の投資活動を見直し、 反省する重要な機会になるばかりでなく、自分の子供たちや孫たちにも話したくなる ような大切な投資の原則が満載されているのが分かるだろう。

 本書に登場するプロフェッショナルな投資家たちは単なる理論家ではなく、現実の マーケットで大きな成功を収めてきた実践家である。この厳しいマーケットの試練を 生き抜いてきたプロによって語られた本書は、比類のない投資の知恵袋であり、また 実践的な投資ツールでもある。この彼らにとって有効だった投資ルールが、読者の皆 さんにも役立つことは間違いない。本書で語られた投資原則をマーケットで実践すれ ば、皆さんのポートフォリオの価値は大きく向上するだろう!


目次

Dennis Gartman
コモディティ王
デニス・ガートマン
訳者まえがき
序文

第1章 霧のなかの道標 (アンディ・ケスラー)
第2章 それほど簡単ではないトレーディングルール (デニス・ガートマン)
第3章 長い経験から得られた勝利の希望
 ――ファンドマネジャーの過去のリターンから将来のパフォーマンスを予測できるか (マーク・フィンとジョナサン・フィン)
第4章 ザ・ロング・ボンド (ゲーリー・シリング)
第5章 リスクはリターンを得るための条件ではない (エド・イースタリング)
第6章 投資の心理――考えることを考えるための投資ガイド (ジェームズ・モンティエ)
第7章 株式リターンの2%上乗せ法 (ロブ・アーノット)
第8章 勝者のルール (マイケル・マスターソン)
第9章 金持ち投資家、貧乏投資家 (リチャード・ラッセル)
第10章 ミレニアムウエーブ (ジョン・モールディン)



原書『Just One Thing : Twelve of the World's Best Investors Reveal the One Strategy You Can't Overlook』

著者 ジョン・モールディン(John Mauldin)

投資問題の屈指のエキスパートであり、またミレニアムウエーブ・インベストメンツ の社長であるモールディンは、個人投資家のマネーマネジメント、金融サービスおよ び投資を専門に活動している。ベストセラーとなった『ブルズ・アイ・インベスティ ング(Bull's Eye Investing)』の著者であり、150万人以上の読者を持つ週刊eレ ター「ソーツ・フロム・ザ・フロントライン」の編集長でもある。フィナンシャル・ タイムズ紙や金融ニュースレターのデイリーレコニングなどにも頻繁に執筆し、さら に特定の投資家向けにヘッジファンドなどに関する情報レターも提供している。証券 問題の人気スピーカーとして、さまざまな投資セミナーや会合でも講演している。

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■訳者まえがき

 本書は国際レベルで活躍するプロたちが、「自分の子供たちに是非とも伝えておきたい大切な投資の知恵」をひとつだけに絞ってまとめたものである。しかし、ここで語られる彼らのオンリーワンの投資術は実に多岐にわたっている。

 第1章では日々押し寄せてくる膨大な情報の波という霧のなかで、いかにして将来の有望な投資対象を見つけるのか。筆者は山登りとそれまでの人生の体験を通してその方法を語っている。第2章はプロ中のプロのトレーダーが語るトレーディングルール。「学者たちから見ると欠陥だらけ」という筆者のシンプルなトレード手法は、すぐにでも応用・実践できるだろう。なにしろ、その手法は30年以上にわたり投資の世界を生き抜いてきた末に確立されたものであるからだ。

 第4章は投資=株式という固定観念から抜け出せない一般投資家に対して、債券投資の魅力を「ザ・ロング・ボンド」号というモーターボートの話を交えて語っている。「長期投資をベースとした少数派の正しい考え方を忠実に守ること」という筆者の投資原則は謹聴に値する。第5章は投資に伴うリスクというものをさまざまな角度から分析している。その結論として、リターンを得るにはリスクを取らなければならないという従来の考え方をひっくり返し、「リスクはリターンを得るための条件ではない」と断言する。

 第6章の「投資の心理」を読めば、行動ファイナンスに対する興味が大きくわくだろう。われわれは自分なりによく考えて投資決定を下しているつもりでも、実はさまざまなバイアス(偏見)の影響を受けている。これまでのファイナンス理論では投資家はホモエコノミクス(完全に合理的な人間)であることが前提となっているが、本当にそうなのか。行動ファイナンスの学者たちが追究したのは、投資という不確実な状況の下で人間はどこまで合理的に判断・行動できるかということである。この章ではさまざまな実験結果を紹介し、われわれ人間の行動の不合理さを明らかにしている。

 第8章はビジネスパーソン向けの勝者のルールである。一般に投資とは「利益を見込んで事業にお金を出したり、証券などを購入すること」と定義される。こうした狭義の定義を「経済的にはもちろん、心身両面でも人生を豊かにするためにお金を投じること」というように投資を拡大定義すれば、この章は投資家にとっても大いに参考になるだろう。筆者の言う「まずは他人の利益を考えよ」とは言うは易く行うは難しであるが、「そうした努力をしなければ、われわれ人間の世界に進歩はないだろう」という訴えは、われわれ現代人が忘れかけている大切な人生のルールに改めて目を向けさせるものである。

 このように本書はプロたちが広い意味の投資について、自分流に自由に語るいわばエッセー集のようなものである。その意味ではあまり肩ひじ張らずにリラックスして読んでほしい。なお、原書の第7章と第9章は日本の読者にとってあまり参考にならないと思われたので、編者の了解を得たうえで割愛した。

 本書の邦訳出版を決断された後藤康徳(パンローリング)、編集・校正でお世話になった阿部達郎(FGI)の両氏には心よりお礼を申し上げます。

 2006年5月

関本博英



■序文

 「ひとつだけ、そうあなたが子供たちに伝えたい大切な投資の知恵をひとつだけ語ってください」。私は彼らにそう言って各章の執筆をお願いした。投資の分野で働く素晴らしいことのひとつは、これらの素晴らしい人々と知り合いになれることである。彼らの貴重な知恵を拝借し、そこから多くのことを学ぶことができる。読者の皆さんも本書の執筆者と語り合う機会があれば、彼らの知恵はあなたの投資人生を実り豊かなものにするだろう。彼らが語る投資の知恵の価値を数量化することはできないが、それらを吸収して実践すれば、投資の腕が上がって損失の苦痛が軽減することだけは確かである。彼らが学んできた知恵の宝庫を皆さんと分かち合うために私は本書を編集した。ひとつの知恵とはいってもそこには特に決まった形式もないので、各章の長さやテーマは執筆者の自由裁量に任せた。各章は平均的な一般投資家でも十分に理解できる内容となっている。

 マーク・フィンはファンドマネジャーの過去のパフォーマンスの問題を取り上げており、その豊富な経験は大手機関投資家向けのコンサルティングに生かされている。デニス・ガートマンは大切なトレーディングルールについて語っているが、皆さんがそれらのルールを無視すれば、大きな損失に泣くことは請け合いである。アンディ・ケスラーは霧のなかの登山という自らの経験を通して、将来の有望な投資対象を見つける方法を語ってくれた。ゲーリー・シリングが語る国債の大きな魅力、株式投資のリターンを年間2%上乗せできるというロブ・アーノットのファンダメンタルズ指数ファンド、マイケル・マスターソンが語るビジネスパーソンの勝者のルールなどの話もとてもおもしろい。

 ジェームズ・モンティエは投資決定における人間心理のバイアスに関する最新の調査結果を紹介してくれた。彼は投資心理学の専門家でこの問題に関する著書もあり、この章は是非じっくりと読んでほしい。1958年から日刊eレターを発行しているリチャード・ラッセルは、複利の威力や行動することの大切さについて素晴らしい話をしてくれた。エド・イースタリングは「リスクはリターンを得るための条件ではなく、利益を積み上げるには損失を出さないこと」として、不必要なリスクを取らず、リスクに直面したときもそれを味方にする方法について語ってくれた。そして最後に、現在進展している世の中の大きな変化について私が執筆した。われわれはこの大きな変化の波と、それをうまく利用する方法について知らなければならない。今後20年間の投資の成否は、こうした変化のプロセスにどのようの対処するのかによって決まるからである。これらのプロたちが語る各章から、皆さんは投資と人生で成功するための多くの知恵をくみ取られるだろう。なお、各章の順序はランダムに配列されており、どこから読み始めてもよい。

 最後に大切なことをもうひとつ付け加えるならば、それはこれらプロたち語る投資の知恵を実際の投資で実践することである。そのためにはこれらプロたちの投資のルールやアドバイス、貴重なアイディアなどを、どのように投資と実生活に生かすのかを考えながら読んでほしい。そうしてはじめて、本書は皆さんにとって価値ある投資本となるのである。



■第1章 霧のなかの道標

 アンディ・ケスラーの活動範囲はかなり広い。ニューヨークの大手企業でリサーチアナリストやインベストメントバンカーを務め、その体験を『ウォール・ストリート・ミート(Wall Street Meat)』という本にまとめた。その後にヘッジファンドのベロシティ・キャピタル・マネジメントを共同設立し、わずか数年間で8000万ドルの資金を10億ドルにまで増やした(その体験談は『ランニング・マネー(Running Money)』にまとめられた)。現在はウォール・ストリート・ジャーナル紙の特集ページをはじめ、フォーブスやワイヤード誌にも執筆するかたわら、CNBC、CNN、フォックス・ニュース、デートラインNBCなどにも頻繁に出演している。最近出版された『ハウ・ウィ・ゴット・ヒア(How We Got Here)』には、蒸気機関車からインターネットに至るまでの産業発展の歴史が描かれている。カリフォルニア州に妻と4人の子供と居住し、新しいプロジェクトに取り組んでいる。最新本の内容は「
www.andykessler.com」からダウンロードできる。――ジョン・モールディン

霧のなかの道標     アンディ・ケスラー

 数年前、あまり乗り気でなかった友人のポールを誘ってニューハンプシャー州のワシントン山に登った。8月の美しい朝で空には雲ひとつなく、鳥がさえずっていた。ポールは13キロほど走ったばかりだったが、私のこのミニ登山にどうにか同行してくれた。彼はランニングウエアを着たまま、私は今はやりの鮮やかな青のTシャツを着た。駐車場に車を止めて登山口に向かったところ、ウルシの木や凶暴なリスにご用心という掲示板の横にこんな標識が立っていた。「止まれ。この先の天候は変わりやすく、夏でも多数の死者が出ている。天候が悪化したら直ちに引き返しなさい」  私は雲ひとつない空を見上げ、これが悪天候なのかと皮肉っぽく叫んだ。山登りはちょっと疲れるが、それほどつらくはなかった。しばらく歩くと森は岩場に変わり、温度は急に下がり、濃い霧が頭上約3メートルのところまで降りてきた。私たちは歩き続け、ついに霧のなかに突入した。

「登山道がどこにあるか分かるかい」。ポールが叫んだ。

「いいや」

「何も見えないな」

「このあたりに道標のようなものがあると聞いていたが」

「あれかな」。4個の大きな岩で固定された黄色の岩のようなものを指さしてポールが言った。

 われわれは霧のなかをそちらのほうに向かった。そこに着くとそこからさらに3~5メートルほど先のところにもうひとつの黄色い岩が見えた。その道標のほうにゆっくりと歩いていったが、すでに体は芯まで冷えていた。ある時点では足下さえも見えず、その黄色い岩の道標は幻覚なのかとも思ったが、道標であることをはっきりと確認して心が爽快になった。すでに午後の2時を回り、寒く空腹でしゃべることもできなかったが、われわれはついにワシントン山の頂上に到達した。登頂の旗を立てる余裕もなく、われわれは歯形レール鉄道の順番待ちをしていた人々を押しのけてレストランに直行した。そこでワシントン山が描かれたやけに値段の高いトレーナーを買って着込んだあと、脂っこいチーズバーガーをがつがつとほおばった。5分ほどぶらついたあと、「さて下山しようか」とポールが言った。今度はどうしたらよいのか迷うことはなかった。これが投資のこつをつかんだ私の体験である。

霧のなかの投資

 投資は(友人がよく言っていたように中国の算数と同じほど)本当に難しい。それは心労が絶えず、心は不安定になり、屈辱的な思いも数えきれず、本当に激変する悪天候にさらされたようなものである。かつてのパートナーであるフレッド・キットラーは、「株式市場はこれでもかこれでもかと苦しみを突きつけてくる」とうまいことを言った。もっとも私はそれほどつらい思いをしたことはあまりない。私は変転の激しいハイテク企業をフォローするアナリストを皮切りに、インベストメントバンカーやベンチャーキャピタリストを務め、最後は資金を10億ドルに増やしたヘッジファンドのマネジャーとしてウォール街でのキャリアを終えた。それはまさに霧のなかの投資によって達成された。

白日の下で金儲けはできない

 初心者向け株式投資講座でもよく言われるように、株価とはその企業の将来の利益の現在価値を反映したものである。何と簡単なことだろうか。あなたが知らなければならないのはその企業の現在の利益、成長率、将来の利益を現在価値に換算する割引率などだけである。例えば、ウィジェッツR Usという企業の昨年の1株当たり利益は1ドル、成長率が12%であるとすれば、2.83%のインフレ率を見込んだ妥当株価は18.42ドルとなる。同社の実際の株価は20ドル、あるいは15ドルであるかもしれない(この水準であれば多くの買いが入るだろう)。しかし、同社のそうした数字は太陽のように明らかであり、投資家はだれでも知っている。つまり効率的市場仮説によれば、このような周知の状況下でお金を儲けることは不可能である。しかし、このハイテク部品メーカーのビジネスは常に変化しており、これからさらに良くなることもあれば、悪くなることもあり、将来的に12%の成長率を維持することはできないかもしれない。それでも現在の株価は12%の成長率を反映したものとなっている。

 株価に織り込まれる材料は毎日変わり、その企業の価値も常に変化している。期初の設備投資計画は売上高と利益の変動によって修正されるかもしれないし、企業の成長率もグローバルな経済の動向に大きく左右される。インドネシアで舞うチョウの羽ばたきは株価とは無縁だが、タイの政変は株価に大きな影響を及ぼす。その影響ははっきりと数量化できないが、それによってリスク調整後の成長率が修正されるのは間違いない。ウィジェッツ社の株価はいわば白日の下にさらされており、すべての投資家がそれを見ている。これに対して私はと言えば、だれも何も知らないいわば霧のなかに身を置いてきた。判断が正しければ、霧を見通して黄色の道標を見つけることができる。そしていったんそこにたどり着けば、適正な株価が一目瞭然となる。私はこのようにして次々と道標を探し求めてきたのである。

霧のなかの投資

 霧のなかの投資とは逆張り投資のことではない。それはほかの人よりも一歩先を見ることである。もしもすべての投資家がスターバックスのコーヒー店でコーヒーをすすりながら、インターネットに接続したパソコンを見ているとすれば、あなたはすでに遅すぎる。株式市場はすべてのことを知っているので、コンピューターのチップやサービス企業の成長率は直ちに株価に織り込み済みとなる。霧のなかの投資とは、ほかの人が見えないものを見ることである。多くの人が霧に包まれればパニック状態になるかもしれないが、霧のなかの投資家はそうしたときでも平静さを保ち、想像力を駆使して将来を見据え、遠くのおぼろげなものが現実になったかのように投資するのである。割安な値段で投資したおぼろげなものが次第に現実になれば、あなたは大儲けできる。もはやあなたは霧のなかにいるのではなく、そのときにはすべてが白日の下にさらされる。

 マネーマネジメント会社のトレーディングルームに一歩足を踏み入れると、そこにはびっくりするような世界がある。点滅する多くのスクリーンには株価、ニュース、プレスリリースなどが映し出され、CNBCのモニターにはさまざまな情報が流れている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙を読んでいるマネーマネジャーがいるかと思えば、ニューヨーク・タイムズ紙の経済欄、バロンズ、フォーブス、フォーチュンまたはビジネス・ウィーク誌に目を通す者。さらにはマーケットウォッチのeメールアラートを読んだり、ヤフーやモトリー・フール(個人向け投資教育・金融情報サービス大手)のメッセージボードをスキャンするマネジャーもいる。それはマーケットが開く前の光景である。彼らは大手証券会社からのeメールやモーニングコールズの相場コメントをチェックし、大手企業ではウォール街のセールスパーソンからの電話がひっきりなしに鳴っている。  それならば、彼らはそこから有益な株価情報を得ているのだろうか。私には大いに疑問である。情報とはマーケットの動きを伝えるものであるが、それはすべての投資家が知っている白日の下にさらされた事実である。大切なことはそうした情報が3カ月、6カ月、18カ月、さらには(あなたにそれだけの忍耐力があるならば)3~5年先にどうなっているかである。それらの情報があなたの予想したとおりの現実になれば、あなたは相場の勝者となる。すなわち、それまではぼんやりとしか見えなかった黄色い岩の道標にあなたはたどり着いたのである。それはほかの人がだれも信じなかったとき、最初に投資したあなたにもたらされたリターンである。そうした道標を信じて購入した株式は20~30%どころか、2倍、3倍、ときには10倍もの利益をもたらす。それが投資というものである。

投資の道標を見つける

 それならば、投資の道標とは具体的にどのようなものなのか。それはやがては99%の確率で現実となる大きなトレンドである。それを見つけるには当てずっぽうではだめであり、努力と汗と試行錯誤が求められる。もしも間違った道標に向かえば、崖から落下するかもしれない。または宝庫に至る隠れた道を見つけようとして、霧のなかで道に迷ってしまうこともある。私は20年間にわたりウォール街に身を置いてきたが、その期間中に2つの霧中の道標を見つけた。私は投資のプロとして10億ドルの資金を運用したが、そのベースとなったのはこの2つの道標である。その2つの道標とは、①価格弾力性、すなわちある製品の値段が安くなればそれは大きな市場を形成する、②(情報を含む)インテリジェンスはネットワークの隅々まで行き渡る――ということである。以下ではこれらについて説明しよう。

価格弾力性

 1985~1986年ごろ、株式については何も知らなかった26歳の電気技師の私は、ニューヨークのペインウェバー証券に半導体アナリストとして雇われた。この業界のその当時の受注には大きなばらつきがあり、1986年春までに大不況に突入した。インテル、テキサス・インスツルメンツ、モトローラ、アドバンスト・マイクロ・デバイシーズ(AMD)などの株価は軒並み暴落した。受注は完全に途絶え、メモリーとマイクロプロセッサーの価格も底なし沼に落ちたかのようだった。その当時の私はチップを購入するのはIBMではなく、これらの部品メーカーであると知っていたので、それらの株式を売り推奨する一方、反転と買い推奨のきっかけを模索していた。私はエレクトロニクス・マガジン誌でEPROM(消去およびプログラム可能なROM)についての記事を読み、この部品の価格が下がるごとにその使用量と使用範囲は飛躍的に伸びていくと予想した。EPROMを使用する製品はビデオゲーム、パソコン、モデムと広範囲にわたるので、値段が安ければそれに比例して売り上げは増加すると主張した。こうした現象は「価格弾力性」と呼ばれる。その当時のエコノミストにはこうした知識がなく、これについては何もコメントできなかった。  私はチップと半導体のこうした価格弾力性というコンセプトをひっさげてリサーチ活動を展開した。すでにインテルの共同設立者のひとりであるゴードン・ムーア会長は、1965年4月号のエレクトロニクス・マガジン誌に「半導体の集積度は1年半で2倍になる」という半導体技術の進歩に関する予測を発表していた(これが「ムーアの法則」を呼ばれるものである)。価格弾力性とは半導体の価格が下落するごとにこの産業が発展していくことをいわば経済的に説明したものである。その後の半導体産業は私の予測どおりに急発展し(半導体メーカーの株式も急上昇していった)、私は花形の半導体アナリストとなった。

 しかし、この道のりもけっして平坦なものではなかった。私がこのことを話すたびに、ファンドマネジャーたちからは「一体あんたは何の話をしているの」といった冷たい視線が向けられた。友人や家族からもよくこうした視線を浴びたものだ。そこで私は冷静に半導体の価格が下がるごとに、それを使用する製品の範囲が広がっていくことを口を酸っぱくして説明した。レーザープリンターに高性能で安価なメモリーが組み込まれると、印刷時間は速く、コストも安くなっていく。ラッキーなことにDTP(デスクトップ・パブリッシング)が急速に普及し始めたおかげで、私のこの価格弾力性のコンセプトも次第に受け入れられていった。  1996年に私はパートナーとベロシティ・キャピタル・マネジメントを設立し、半導体の価格弾力性が今も有効であるならば、電気通信事業の帯域幅(データ通信の伝送容量)もこれにならうだろうと主張した(ウォール街の人々はまだこうしたことが理解できなかった)。企業や家庭向けのデータ送信コストが安くなれば、便利な機能を備えた安い製品が続々と登場するはずである。事実、モデムのスピードは14.4キロビットから256キロビット、さらには1メガビットになり、LAN(域内通信網)の伝送速度は10メガビット~ギガビットが普通になった。これを可能にしたのが光ファイバーであり、インターネットの普及と相まってそれをベースとした多様なビジネスも急成長した。1996年当時、電気通信事業の価格弾力性に関するわれわれの主張に多くの人々はうさんくさい目を向けていたが、1999年までにこうしたことを知らない投資家はいないほどになった。こうした価格弾力性は今でも有効である。メモリーの価格がさらに下落してますます多くのメモリーがデジタルカメラ、携帯電話、パソコン、10ギガビットのネットワークなどに組み入れられれば、その市場はさらに拡大していくだろう。こうした半導体の価格弾力性は自動車、医療、金融サービスでも働いており、目を凝らしてそうしたトレンドを見極めれば、霧中の道標にたどり着くことができるだろう。

インテリジェンスはネットワークの隅々まで行き渡る

 以下ではもうひとつのトレンドについて述べるが、それは価格弾力性の副産物のようなものである。このトレンドは安価なパソコン、高機能の携帯電話、ブロードバンド(広帯域)通信のなどが広く普及したときに起こる。これについてある慧眼の人はこう語っている。

 ネットワークが広い範囲に普及すると、ひとつの中央権力ですべてをコントロールすることはできない。そうした遠隔的なコントロールではすべてのことに目が行き届かなくなり、人々の適切な管理はできなくなる。その結果、仲介業者の汚職、略奪、腐敗などがまん延する。

 これは第3代大統領のトーマス・ジェファーソンが1800年に述べた言葉である。ジェファーソンの連邦主義的な信念は農村教育によって培われ、中央集権主義に対して強く抵抗した。こうした「インテリジェンスはネットワークの隅々まで行き渡る」というトレンドは、パソコン、iPod(アップルコンピュータの携帯音楽プレーヤー)、携帯電話、デジタルカメラ、GSPマップ(位置情報サービス)などの普及によって促進されている。1983年以前のネットワークは古いアナログ勢力(SBCコミュニケーションズ、コムキャスト、シンギュラー・ワイヤレス、タイム・ワーナー、ベライゾンなど)に支配され、政府管轄の委員会がすべてのルールを定めていた。通信価格も統制され、ネットワークのセンターは硬直化し、まずは権力者の利益が優先され、ユーザーの利益は二の次だった。こうした状況がテクノロジーの革新や新しいビジネスモデルを凍結していた。  例えば、SBCのサービスを見ると電話料金は月額20ドル、12のボタンしかない使い勝手の悪い電話機で、ネットワークの各地コールセンターまでいくつものラインが伸びていた。それが今ではスカイプ(IP電話のフリーソフト)によるダウンロードはもちろん、パソコンや携帯電話での音声や画像の送受信は無料である。情報はインターネットを通じて全世界を自由に駆けめぐり、シスコシステムズやジェニパー・ネットワークスのルーターでは何兆パケットもの情報が行き来する。それらはインターネットのウエブページ、グーグルのリサーチ情報、アマゾンへの書籍注文などであり、今ではネットワークは司令塔ではなく、スプリンター(短距離走者)である。  ポストインターネット時代の生き残りをかけ、2005年5月には米地域通信最大手のベライゾン・コミュニケーションズによる長距離通信2位のMCI(旧ワールドコム)の買収が発表されたが、これについてベライゾンのイバン・サイデンバーグCEO(最高経営責任者)は次のように述べている。

 ネットワークの拡大は顧客向けサービスの生命線である。おもしろいサービスや便利な機能を含むすべてのインテリジェンスはネットワークに取り込まれる。

 これはかのジェファーソンの言葉と符合する。ベライゾンはユーザーがネットワークで利用できるすべてのサービスを提供しようとしている。インテリジェンスがネットワークの隅々まで行き渡ると、ITイノベーションは急速に進展する。携帯電話会社の基本サービスには電話のブラウザを通じて、音声やメールのほかに地図情報やその他の便利なサービスが付加されるだろう。フランスのミニテル社は20年前に初めて天気、ニュース、電車時刻などの情報サービスを開始したが、それらはすべて中央センターの職員が膨大な時間と費用をかけてプログラムしていた。ところが今ではグーグルにアクセスすると、知りたい情報が一発で検索できる。このようにわれわれのネットワーク機能は日に日に高度化している。これからもメガピクセル(画素)のカメラ、プログラム可能なテレビ、位置情報サービスを標準装備した携帯電話などの便利なサービスが続々と登場するだろう。

話の続き

 ワシントン山から下山したポールと私はようやく車のところに戻った。そこは雲ひとつない夏の青空の下で、ワシントン山で買ったトレーナーを着ているとさすがに暑かった。われわれは馬でも食えるぐらいに飢えていた。地図を見て東に向かう道路を確認し、速度制限法に違反するくらいに突っ走り、数時間後にメーン州の海岸に到着した。近くのレストランに駆け込み、われわれ2人はそれぞれ500グラムもあるロブスターを3匹平らげた。それはこの日の山登りと霧のなかの道標探しのご褒美だった。


【訂正とお詫び】 58ページの図4.2を、以下に訂正してお詫びいたします。




■関連書籍

『エンドゲーム 国家債務危機の警告と対策』(プレジデント社、2012年)

同著者による最新刊

『バイ・アンド・ホールド時代の終焉』

第5章に登場するエド・イースタリングの著書

『ロジカルトレーダー』

第2章に登場するデニス・ガートマンの「ガートマンのバカバカしいほど単純な20のトレードルール」を、『ロジカルトレーダー』の著者のマーク・B・フィッシャーも、高く評価して巻末に掲載している




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