TrendFollowing.com 社長。成功を収めているトレンドフォロー派の投資マネジャーた
ちを調査研究し、ほぼ10年間にわたりトレンドフォローの観点から個人トレーダー、
ヘッジファンド、銀行などにアドバイスを提供している。また、トレンドフォロー分
野のニュースとコメントを提供する代表的な情報源である
■日本語版への序文
『Trend Following : How Great Traders Make Millions in Up or Down Markets』の日本語版が発行されることを知り、大変うれしく思っています。この本は、大きな成功を収めているにもかかわらず、メディアに登場することをあまり好まないトレーダーたちとそのトレード手法について明らかしている初めての本です。トレンドフォローの歴史、トップトレンドフォロアーたちの物語、そしてマーケット史上に残るいくつかの大きな出来事において彼らがどのようにして勝者になったかという話は、だれにとっても興味深く、だれにとっても役立つものであるはずです。なぜか? それは、トレンドフォロー型のトレーディングは、あらゆるマーケットに適用可能だからです。地理的、文化的、言語的な境界をすべて超越するからです。どこの国に住んでいようと、国籍がどこであろうと、世界中の投資家が長期的な成功を収めるための最高のトレーディング戦略だからです。
日本やアジアのマーケットを舞台に展開されたいくつかの事件において、敗者たちが失った分を手にしていたのは、トレンドフォロアーたちでした。例えば、1995年に起きたベアリングス銀行の破綻は、ひとりのごろつきトレーダーが日経225で巨額損失を出したことが原因でした。ベアリングス銀行が失った分はだれが手にしたのか? トレンドフォロアーたちでした。1997年のアジア危機では、ある悪名高きトレーダーが率いる数百万ドル規模のヘッジファンドが倒産に追い込まれました。トレンドフォロアーたちが相場を正しく見きわめていたときに、そのトレーダーが相場の判断を誤ったのはなぜかを理解しておくことは重要です。
あなたがどこのだれであるかは問題ではありません。トレンドフォロアーとして成功するのに、トレーディングの経験は必要ありません。ファイナンスの知識や修士号も必要ありません。ウォール街で経験を積む必要もありません。この10年間、トレーダー、投資家、そしてマーケットについて学びたいという人たちが、わたしが運営しているウエブサイト(www.trendfollowing.com)を訪れ、わたしが発行しているメールレターを読んでいます。わたしはスタッフとともにウエブへの訪問者たち、学生たち、読者たちからの質問に答えています。学ぶ意欲があり、決断を正しく行うことに関心を持ち、学んだことを人生に適用する自己規律を備えていれば、だれでも長期的には利益を手にすることができます。
現在は通貨とか株式だけだが、今後はその他のマーケットへも手を広げたいと考えている方は、本書を読み終えたとき、その計画についてもっと自信を持てるようになることをわたしたちは願っています。あなたが、例えば、トレーダーになりたいと考えている学生ならば、本書を読んだことで、その目的に専念できるようになることをわたしたちは願っています。あなたが、すべてのマーケットでメカニカルなトレーディングシステムを活用して運用成績を伸ばしたいと考えている平均的な投資家ならば、本書を読み、その答えがトレンドフォローであることを発見されることをわたしたちは願っています。ひとつのマーケットだけでは満足できなくなったが、どのようにして次のレベルに進んでいいのか分からないならば、本書を読むことで、まったく新しい展望とアイデアを得ることができるとわたしたちは確信しています。
ぜひわたしに気軽にフィードバックをください。皆様からのお便りといつの日にか日本でお目にかかることを楽しみにしています。
2009年5月
■訳者あとがき
本書は、書評でも『マーケットの魔術師』(パンローリング)と並び称されているように、米国のトップトレーダーたちを紹介している本です。違いは、トレンドフォローという特定の手法を採用している、いわば「トレンドの魔術師」たちとその手法に焦点を絞っていること、そして情報源をインタビューに限定せず、各種の公開情報を縦横に活用してそれらトレーダーたちの実態を明らかにしている点です。
その結果、あちらをバイキング料理とすれば、本書はコースメニューといった趣になっています。このメニューにはたくさんの凝りに凝ったサイドメニュー(引用)が付いていて、食する立場としては大いに楽しみ、栄養になりましたが、調理をする立場としては手強い食材を前に厨房でひとり涙することもありました(笑)。
もうひとつの大きな違いは、予測に対するスタンスにあります。ジャック・D・シュワッガーは「マーケットは予測不能(ランダム)ではない」としているのに対して、本書の著者たちは「過去を変えることはできないし、未来を予測することもできない」としています。
ちなみに、ぼく自身は、過去は変えることができるし、未来は細かく定められた未来とまるっきり空白の未来の両方が用意されていると考えています。マーケットについてではなく、少し次元の違う話としてですが……。
相場の予測が可能かどうかは、トップクラスの専門家たちでさえ議論が分かれることですから、どちらが正しいと判断することは簡単ではないでしょう。つまりにつまるところは、どちらが自分に向いているかではないでしょうか。
いわゆる投資指南書では、決まったように性格的・心理的な要素について語られていますが、本書ではきわめて明確にトレンドフォローに向いた性格が説得力をもった形で明らかにされています。
トレーディングに刺激や快感を求めず、価格だけを基準に淡々と売買できる人。表層だけでなく、深層の心理でそういう状況に満足できる人にとって、トレンドフォローは至極の手法と思われます。
ただ残念なことに、実践に移すには具体的な手法に関する情報が不足しています。著者たちには続編『サルにもできるトレンドフォロー(Even Apes Can Trend Follow)』をぜひとも期待したいところです。書名はむろん冗談ですが、そういう性格の本を。
著者のマイケルにはメールでお世話になりました。メールだけで飾り気のないトレンドフォロアー型の人柄が伝わってきました。ご本人もフィードバックを希望しているようなので、本書をお読みになったら、感想や意見をメールすることをぜひお勧めします。
2004年師走
古河みつる
■序文
「危険に満ちた旅に挑む男求む。低賃金。低温度。何カ月も真っ暗闇が続く。常に危険と隣り合わせ。生還は望み薄。成功した暁には名誉と賛辞が得られる」1
本書は8年間にわたるトレンドフォローの真実への「危険に満ちた旅」の成果である。世の中には金融とトレーディングに関する本が溢れているが、市場で一貫して利益を上げている最高の戦略に関する実際的な情報が欠けている。本書はその空白を埋めるものだ。その戦略とはトレンドフォローだ――。
「トレンドフォローという言葉を分解してみよう。最初の部分はトレンドだ。どんなトレーダーでも儲けるにはトレンドが必要だ。考えてみてほしい。どんなテクニックを駆使しようとも、買ったあとにトレンドがなければ高値で売ることはできない。次の部分はフォローだ。この言葉を使うのは、この戦略を使用するトレーダー(トレンドフォロアー)たちは、トレンドが転換するのを待ってからフォロー(追随)するからだ。
トレンドフォローは、上昇トレンドでも下降トレンドでも、トレンドの大半をとらえて利益を得ようとする。主要なアセットクラス――株式、債券、通貨、コモディティ――において利益を求めて投資する。だがトレンドフォローの基本的なコンセプトについては、ほとんど誤解されているのが現状だ。その状況を正したいという願いが、このリサーチを立ち上げる原因のひとつだった。できるだけ客観的でありたいと思ったので、わたしたちは一般に入手可能なデータを基礎にした。
- トレンドフォロアーによる過去の月次パフォーマンス
- トレンドフォロアーによる過去30年間に公表された言葉とコメント
- 巨額損失事件に関するニュース記事
- 巨額損失事件における敗者に関するニュース記事
- トレンドフォロアーが取引を行った市場のチャート
- 巨額損失事件において敗者が取引を行った市場のチャート
トレンドフォローのパフォーマンスデータの数値とチャートとグラフだけの本を出すことができるなら、そうしただろう。だが言うまでもなく、それらデータが示すすべての派生的影響を理解できる読者は少ないだろう。だから本書の書き方は、ジム・コリンズが『ビジョナリー・カンパニー2――飛躍の法則』(日経BP出版センター)で説明している方法と似通ったものになった。つまり、リサーチャーがチームになり、まず質問を作り、その答えを見つけるためにデータを収集しまくり、それからエネルギッシュに議論を重ねた。
わたしたちが調査したトレンドフォロアーたちは、ときおり記事が出るのを除いて、大手マスメディアが事実上無視している比較的無名のトレーダーたちによる一種の地下ネットワークを形成している。わたしたちが目指そうとしたのは、並はずれた成功を収めているそれらトレーダーたちが、何者であり、どのような手法を駆使していて、その手法・アプローチからわたしたちが学ぶべきものあるとすればそれは何か――といういままでベールに隠されてきた真実を初めて白日のもとにさらすことだった。
トレンドフォローは、ほとんどの伝統的なトレーディングテクニックを否定する。わたしたちはウォール街によって慣行化され、常識化されている知識には左右されないことを決意した。わたしたちは断固として「地球は平らである」という考え方と戦う。調査では、仮定から出発してそれを裏付けるデータを探すという方法を避けるよう努めた。逆に、まず質問を提起し、それから客観的に、粘り強く、ゆっくりと、答えがその姿を現すのを待つよう心がけた。
このやり方を採用した理由が何かあったとすれば、それは単純な好奇心だ。トレンドフォロアーについて知れば知るほど、もっと知りたいという気持ちがつのった。例えば、最初のころの質問のひとつは、1995年にベアリングス銀行が破綻したときに儲けたのはだれだったか、ということだった。わたしたちの調査で、トレンドフォロアーのジョン・W・ヘンリー(現在ボストン・レッドソックスの筆頭株主)のものを含む、ベアリングス銀行関連のパフォーマンスデータが明るみに出た。ヘンリーの実績から新たに疑問がわいてきた。例えば、「そもそも彼はどうやってトレンドフォローを発見したのか?」「この20年間に彼のアプローチは大きく変わったのか?」ということだ。
また1998年の8月と9月にLTCMが失った190億ドルを手に入れたのはだれだったのかについも興味がわいた。ウォール街の各大手銀行が、ノーベル賞を受賞しているとはいえ、オプション価格決定モデルになぜ1000億ドルもの投資をしたのか知りたかった。さらに、過去数年間にミューチュアルファンドマネジャーたちが失ったものと成功しているトレンドフォロアーたちが同じ期間中に稼いだものを考えると、トレンドフォロアーについて知っている投資家がなぜこんなにも少ないのか、わたしたちには理解できなかった。わたしたちは以下の点にも興味を持った。
- トレンドフォロアーはトレーディングというゼロサムゲームでどのようにして勝っているのか
- トレンドフォローが最も利益をもたらすトレーディングスタイルである理由
- トレンドフォロアーの成功の哲学的な枠組み
- 時代を超越するトレンドフォローの原則
- トレンドフォロー的相場観
- トレンドフォローが陳腐化しない理由
わたしたちが調査した多数のトレンドフォロアーは、人目を避け、目立つことをきわめて嫌う。トレンドフォローを自力で発見し、自宅のオフィスでひっそりとそれを使って財を成した人もいる。25年にわたって市場平均を超えた成功トレンドフォロアーであるビル・ダンは、フロリダの海岸近くの街にある閑静で質素なオフィスで投資を行っている。ウォール街ならそんなトレーディング方法は神を冒涜するに等しい。そういうやり方は、ウォール街の成功に影響されてわたしたちが身につけた、あらゆる習慣、儀式、装飾、神話的通念と正反対だ。というより、本書でトレンドフォロアーたちを紹介することによって、成功トレーダーとは、ウォール街のトレーディング会社の迷宮のなかでモニターに囲まれ、電話に向かって叫びなら、週7日、1日24時間イライラしながら過ごしている超ワークホリックだ、という世間の誤解が解かれることをわたしたちは望んでいる。
本書はトレンドフォローに関して初めて総合的な形でまとめられた本だが、けっして本書だけであなたが必要な情報がすべてそろっているわけではない。わたしたちのウエブサイト(http://www.trendfollow.com/)も合わせて利用してほしい。また、なじみのない言葉、名前、リファレンスなどが出てきたらGoogle(http://www.google.com/)で検索してほしい。
わたしたちはみなさんに折に触れ「なるほど」という体験をしていただけるように、資料を利用しやすく、興味深いものにしようと努めた。だが、もしトレーディングの「秘密・秘訣」を求めているなら、ほかをあたってもらわなければならない。そういうものは皆無だからだ。『Den of Thieves』や『Barbarians at the Gate』のように、典型的なウォール街企業の内側はどんなものか、あるいはな強欲なトレーダーがどのように破滅への種をまくのかという話を求めているなら、わたしたちはあなたのニーズを満たすことはできないだろう。
本書を書いた経緯に関する説明のなかで、わたしが「わたし」ではなく「わたしたち」と言っていることに気がつかれたかもしれない。それは、その知恵とトレード経験を快くわたしに教えてくれた、トレーダー、学者、投資家、同僚、友人たちの寛容さなしには実現することができなかったからだ。その人たちのサポート、長時間にわたる尽力、創造力がなければ、『トレンドフォローイング』はいまだに危険に満ちた旅の途上にあっただろう。だからもし「名誉と賛辞」が与えられるとしたら、それは本書の表紙に名前が記されている面々だけではなく、参加したすべての人たちに与えられるべきだ。
■第1章 トレンドフォロー Trend Following
「投機は未知の未来の不確定な状況が相手だ。人間の行為は、時の流れに組み込まれているという意味で、すべからく投機である」
――ルートビッヒ・フォン・ミーゼス
市場
市場とは、簡単に言えば、いろいろな理由からモノを取引・交換し、売買するために買い手と売り手が集まる場所だ。市場は金融と実体経済とを結びつける重要な役割を果たす。ニューヨーク証券取引所と店頭銘柄気配自動通報システム(いわゆるナスダック)はどちらも市場だ。シカゴ商品取引所(CBT)とシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)は先物取引所だ。これら取引所はみなトレンドフォロアーたちが売買を行っている市場だ。
買い手と売り手が事実として依存できる「価格」を提示するのが市場の機能だ。オーストラリアの著名なエコノミスト、ルートビッヒ・フォン・ミーゼスは、次のように言っている。
「自らの責任で行動する個人と個人からなるグループの行動から派生する、というのがまさしく価格のエッセンスだ。交換比率と価格の交換学的概念においては、中央当局、社会や国の正義をかざして暴力や脅しに訴える連中、そして武装した圧力団体の行動の結果であるものはすべて排除される。価格を決定するのは政府の仕事ではないと宣言しても、わたしたちが論理的思考の境界を超えていることはない。ガチョウが鶏卵を産めないのと同様、政府が価格を決定することはもはやできない」3
勝ちと負け
この数年間、企業と市場のスキャンダルが頻発したため、一般大衆が市場で勝つことを不正をすることと同じだと考えても無理はない。だが、市場にはきわめて高潔でありながら毎年素晴らしい収益を上げている、規律正しい紳士淑女もいる。その人たちがなぜそれほど成功しているのかを理解するために、その人たちの市場哲学や戦略を学んでみることをおすすめする。なぜ誠実であり続けることができるのかを理解するために、そういう人たちの信条や自己認識を学んでもらいたい。しかし、他人のものの見方を学ぶ前に、少し時間を割いて自分自身のものの見方について考えてみてほしい。あなたは投資をどのようにやっているのだろうか?
例えばあなたはこんな風ではないだろうか? 90年代末、投資も好調で自信を持ち始めたちょうどそのころ、ドットコム・バブルが崩壊し、その嵐が過ぎ去ったときにはかなりの損失を被っていた。あなたはアドバイスを受けていたアナリスト、エキスパート、ブローカー、あるいはマネーマネジャーに腹を立てていた。あなたは彼らのアドバイスに従った以外悪いことを何もしたわけではない。それなのに、投資目標の達成がまるで不可能になってしまった。相場はやがて回復するだろうとそれまでの投資分は持ち続けたが、401K資金をどうすべきかが悩みの種になった。それでも底で買うのがいいと信じていた。あなたは相場で勝つには運がすべてだと考え始めた。
あるいは、あなたは金融の世界を次のように見ているのかもしれない。下げ相場で少し損をしたのは確かだが、勝とうと負けようと、儲けられるかもしれないと考えながら株式投資をしているスリルを楽しんでいる。あなたにとって投資は娯楽だ。おまけに、他人に尊敬されたいので自分の投資について自慢するのが好きだ。損すると落ち込み腹も立つが、儲けると有頂天になる。あなたの主要目標は短期に利益を上げる投資なので、相場が上げていようが、下げていようが、いつも同じことをやっている。それに、何年か前に「耳より情報」を頼りにトレードして一度儲けたというおいしい体験が忘れられないでいる。
投資について考えるにはもっといい方法がある。こんな考え方はどうだろうか? あなたのアプローチは客観的で理性的だ。他人に投資推奨を求める必要がないほど、あなたは自分で判断するのに十分な自信を持っている。適切なチャンスが到来するまでじっくりと待つことに満足している。だが、新高値を付けている銘柄を買うことほど自信過剰では断じてない。あなたにとっての買い場はだいたいブレイクアウト時だ。自分が間違っていると気がついたときは直ちに手仕舞いする。あなたは損したことを、学び、前進するための機会ととらえている。過去にこだわっていていいことがあるだろうか? あなたはトレーディングをビジネスとして取り組み、売買した銘柄とその理由を小切手帳の帳尻を合わせるのと同じように記録する。自分の投資判断を客観視することによって、前向きに判断できる。
なんと対照的な考え方だろうか。前者は敗者、後者は勝者になるべき者の考え方だ。だが、そのような選択がどのような意味を持つかを十分に理解するまでは、性急に勝者の手法に飛びついてはならない。とはいえ、本書で、「バッターボックス」に立ち、頑張ってみようというインスピレーションを見つけていただければ幸いだ。
「利益を求める投機は市場の原動力だ」――ルートビッヒ・フォン・ミーゼス
投資家とトレーダー――あなたは世界をどう見るか?
あなたは自分自身を投資家とトレーダーのどちらだと考えているだろうか? ほとんどの人は自分を投資家だと思っている。だが、市場の大勝利者たちが自らをトレーダーと称していると聞けば、なぜだか知りたくないだろうか? 簡単に言えば、投資をせずに、トレードをしているからだ。
投資家は、投資対象物の価値が上昇すると考えて、お金、つまり資金を株式や不動産などの市場に投入する。価値が上がれば、その人の「投資」の価値も上がる。投資家は一般的に投資価値が減少したときの計画を持っていない。価値が回復し、上がることを望みながら、投資を持ち続ける。投資は一般的に上げ相場で儲け、下げ相場で損をする。
これは、投資家が弱気の下げ相場に対して恐怖心と不安を抱いているため、損をしているときにどのように対処すればいいのか計画できないからだ。彼らは「腰を据えて待つ」ことを選ぶので、損をし続ける。彼らは、「空売り」のような複雑な取引方法は損失を招くものだとなんとなく考えている。そういう取引方法についてほとんど知らないし、学ぼうともしないのだ。大手マスメディアが相変わらず、投資が「善」で「安全」なことで、トレーディングが「悪」で「危険」なことだという姿勢を取り続けているから、人々は自分をトレーダーだと思うことも、そもそもトレーディングが投資とどこが違うのかを理解しようとすることもしないのだ。
トレーダーは唯一の目標である利益を得るために資金を市場に投入するための、決められた計画や戦略を持っている。トレーダーは開始時よりも終了時にお金が増えていれば、保有しているものや売却するものに執着することはない。投資をしているわけでなく、トレードをしているからだ。これは重要な違いだ。
筋金入りのトレンドフォロアーであるトム・バッソは、実際にトレードしているか否かにかかわらず「人間はトレーダーだ」とよく言っている。毎日売買していなければトレーダーとは呼べないと思っている人もいる。トレーダーの条件はトレードするかどうかというよりも人生に対する考え方だ。例えば、トレンドフォロアーの考え方には忍耐が含まれる。狙った獲物が無防備になる瞬間までアフリカのライオンが何日も待つように、トレンドフォロアーはトレンドを何週間でも何カ月でも待つことができる。
理想的には、トレーダーはショート(売り建て)もロング(買い建て)と同程度に行い、相場が上げても下げても儲けることができる。しかし、大半の「トレーダー」はショートすることができない。相場が下げているときに儲けるという発想にどうしても抵抗があるところが投資家に似ている。本書を読んだあとには、下げ相場で儲けることにかかわる当惑とためらいが払拭されていることをわたしたちは願っている。
ファンダメンタルとテクニカル――あなたはどんなトレーダー?
トレーディングには基本的な理論が2種類ある。ひとつの理論はファンダメンタル分析、つまり、特定の市場における需給に影響を与える外部要因の研究だ。ファンダメンタル分析は、天候、政府の政策、国内および海外における政治・経済の動向、株価収益率、貸借対照表などの要因に注目する。市場の需給要因、つまり「ファンダメンタルズ」を監視することによって、市場の価格に反映される前に市況の変化を予測することが可能だというわけだ。
ウォール街の大部分はファンダメンタル分析の支持者たちだ。さまざまなファンダメンタル予測をもとにすべてのドットコム株は永遠に値上がりすると予測し、「ニューエコノミー」を高く評価していた学者、ブローカー、アナリストたちだ。彼らのバラ色の予測を真に受け、バブルが崩壊したときにどうやって脱出したらいいのかも知らずにドットコム・バブルに飛び込んでいってしまった人がたくさんいた。
投資戦略を変更した人はいるだろうか、それともいまでも毎日ファンダメンタルのニュースを欠かすことができないでいるのだろうか? 2003年秋のあるトレーディングの1日を概説したYahoo! Financeのコメントで、何も変わっていないという証拠を見ることができる。
「寄りつきはまずまずだったが、結局連続4日株価が下げて引けた……当初、各種指数は上向きだったが、ほとんどが月曜午後のバウンスからの継続で……だが時間がたっても相場は上向きのモメンタムをまったく得られず、ついにブレイクダウンが起きた……今回の動きの原因はドル安とされた、まだ株価が上がっていた朝にドルはすでに下げていたにもかかわらずだ……また、OPECの産出量削減に関するベネズエラ高官の希望的観測発言を受けて石油価格が跳ね上がった……それら要因が売却するための単なる言い訳だったのか、あるいはファンダメンタル要因としてまともに受け取られたのかはほとんど問題ではない……地合は軟調でチャート信奉者たちはもっと大幅な調整が起こるのではないかと危惧している……終わりごろ、各種指数が引けにかけて急落したが助けにならず……企業ニュースはおおむね良好……ホームデポ(HD 34.95 -0.52)は好調な業績を発表したが当初の上げ分を失い……アジレント(A 27.77)も業績は良好だった……ゼネラル・エレクトリック(GE 28.44 +0.63)の投資判断はメリルリンチによって「バイ」に引き上げられた」
たくさんの読者がいまだに毎日Yahoo! Financeにログオンしているので、彼らの代わりにわたしたちが以下の疑問を提起してみよう。
- あなたがショートしていたとしたら、4日連続の下げはいいことなのでは?
- バウンス(反発)という言葉を正確な数式で定義してください。
- 上昇モメンタムという言葉を正確な数式で定義してください。
- 原因をドル安に決めたのはだれ? その人たちはどうやって決めたのか?
- 軟調という言葉を正確な数式で定義してください。
- 「企業ニュースはおおむね良好だった」とはどういう意味か?
- ホームデポが好業績を発表したのに株価が下落したことをファンダメンタル分析的にはどう説明するのか?
- メリルリンクがGEを「バイ(買い推奨)」に格上げした。そもそも売り推奨に格付けすることはあるのだろうか? メリルリンチはGEを買うべきだとどれだけ本気で言っているのか?
Yahoo!のコメントのどこに真実があるのだろうか? どこに客観性があるのだろうか? トップ・トレンドフォロアーのひとりエド・スィコータはファンダメンタル分析の問題の核心を氏独特のユーモアで突いている。
「ある晩、あるファンダメンタル信奉者と夕食をしているとき、その人がうっかりよく切れそうなナイフをテーブルから落としてしまった。彼はそのナイフがくるくる回りながら落ち、彼の靴に突き刺さるまでじっと見ていた。“なぜ足を動かして避けなかったですか?”とわたしは思わず尋ねた。彼は“ナイフがまた上がって来るのを待っていたのです”と答えたのだ」9
わたしたちはだれでも相場が戻るのを待っている投資家を知ってはいないだろうか? モトリー・フール(Motley Fool)のホームページには、ソリューションとしてファンダメンタル分析を文字どおり「頼みにする」ことの愚かさが表れている。
「すべてはチョコ・プリンから始まった。まだ若いころ、デビッドとトムのガードナー兄弟は父親からスーパーマーケットで株とビジネスの世界について学んだ。弁護士でありエコノミストでもあった父親はふたりに“あそこにプリンがあるだろ? われわれはあれを作っている会社の株を保有しているんだ! だれかがあのプリンを買うたびに、われわれの会社は儲かるんだ。だからもっと買え!”と言った。ふたりはそのレッスンをしっかりと学習した」10
デビッドとトムのガードナー兄弟のプリンの話はかわいげがあるかもしれないが、完結していない。彼らのプランでは仕掛け時は分かるが、プリン株から手を引くタイミングは教えてくれないし、プリン株をいくつ買わなければならないかも教えてくれない。だが残念ながら、たくさんの人たちが彼らのこの単純な話を儲けるための優れた戦略だと信じている。
2つめの理論であるテクニカル分析は、ファンダメンタル分析とはまったく対極的に機能する。このアプローチは、いかなる時も市場価格にはその市場の需給に影響を与えるすべての既知の要因が反映されているという考えをベースにしている。市場の外のファンダメンタル要因を評価するのではなく、テクニカル分析は市場価格そのものに注目する。テクニカルトレーダーは日々の値動きを細かく分析することが価格トレンドを利用する効果的な方法だと考えている。
テクニカル分析の理解でややこしいところはこうだ。テクニカル分析には基本的に2つの形式が存在する。ひとつの形式は、チャートを「読み」、「指標」を使って相場の方向性を見抜く能力がベースになっている。いわゆるテクニカルトレーダーたちは、相場の方向性を予測するための手法を使っている。テクニカル分析による予測に関するよい例を次に示そう。
「わたしはよくテクニカル分析なら絶対儲かるという話を聞く。本当に儲かるのだろうか? その答えは、もちろん、儲かるのだ。人は茶葉や太陽の黒点などを含むあらゆる種類の戦略を駆使してお金を儲ける。正しい質問は、市場全体のパフォーマンスに連動する指数ファンドに何も考えずに投資した場合よりも儲かるか?……ということだ。ほとんどの学術的な金融専門家はなんらかのランダムウォーク理論を信じていて、テクニカル分析をほとんど価値のない疑似科学とほとんど同じか、せいぜい手当たり次第にトレードするよりも手数料の節約になるので少しはマシぐらいなものだと考えている」12
これが大多数の人がテクニカル分析に対して持っている見方だ。つまり、占星術のような、迷信の一種だと考えているのだ。クレディ・スイス・ファースト・ボストンによる株式調査で証明されているように、テクニカル予測は大多数のウォール街の住人が知っているテクニカル分析の唯一の応用例だ。
「テクニカル分析が有効かどうかは30年間にわたって論争の的になっている。過去の価格で未来のパフォーマンスを予測できるのだろうか?」13
しかし、予測も予想もしない、もうひとつのタイプのテクニカル分析が存在する。このタイプは価格をベースにしている。トレンドフォロアーたちは、このタイプの分析を使用するテクニカルトレーダーのグループを形成している。彼らの戦略は、相場の方向性を予測しようとするのではなく、相場に動きがあるたびに対応することだ。トレンドフォロアーは起こることを予測するのではなく、起こったことに対応する。統計的に検証されたトレーディングルールに基づく戦略を貫くことに努力する。そうすることによって、感情に左右されることなく、相場に集中できるようになる。
ひとつめに、価格分析によってトレンドフォロアーがトレンドのぴったり底で仕掛け、トレンドのぴったり天井で仕切ることが可能になるわけではない。2つめに、価格分析では、毎日トレードする必要がない。むしろ、トレンドフォロアーは相場に強制するのではなく、市場環境が整うまで忍耐強く待つ。3つめに、価格分析にはパフォーマンス目標がない。なかには、例えば「1日400ドル儲けなければならない」というようなノルマを課すような戦略を採用しているトレーダーもいるかもしれない。トレンドフォロアーは彼らに「それは結構だが、相場が動かない日はどうするのか?」と問いかけるだろう。
あるトレンドフォロアーはこの問題を次のように要約している。
「わたしは20種類の市場をファンダメンタル分析したが儲けることができなかった。トレンドフォローが有効であるひとつの理由は、予測をしようとしないところだ。トレンド追随者であって、トレンド予測者ではないのだ」14
裁量的と機械的――あなたはどのように決断するか?
投資家とトレーダーが違うことを説明した。トレーディングがファンダメンタルとテクニカルのどちらをベースにしても行えることも説明した。さらに、テクニカルトレーディングは予測的にも対応的にもできること、そしてトレンドフォロアーが価格をベースにした対応的なテクニカルアプローチを駆使するトレーダーであることも説明した。だが、異なるところがもうひとつある。トレーディングには裁量的(ディスクレショナリー)な方法と機械的(メカニカル)な方法がある。
この20年間における最高のトレンドフォロアーのひとりであるジョン・W・ヘンリーは、顧客が彼の手法を理解していることが重要だと考えていて、2つの戦略を明確に区別している。「JWHは、投資戦略は、難しい相場においても諸要件を守り通す運用者の規律の程度に応じてのみ成功できると信じている。常に行動的バイアスによって影響を受ける可能性のある裁量的なトレーダーとは異なり、JWHは規律のある投資プロセスを実践している」15
ヘンリーの言う、判断が行動的バイアスによって影響を受ける可能性があるというのは、売買判断を自らの市場知識、市場の現状の見方、そしてそのほかのいくつかの要因の総和に基づいて行っている多数のトレーダーを指している。つまり、胸三寸で恣意的に判断している、裁量的なトレーディング方法を使用しているトレーダーたちだ。
トレーダーの「裁量」によって行われる決断は主観的であるため、変わることや、あとでとやかく思うことがある。それら裁量的な投資判断には、現実に基づいていて、個人的なバイアスという色が付いていないという確固とした保証はない。もちろん、システムを立ち上げようというトレーダーのそもそもの判断は裁量的なものだ。システムを選び、ポートフォリオを選択し、リスク・パーセンテージを決めるような裁量的な判断を下さなければならない。だが、基本的な事項を決定したあと、それら裁量的な判断をシステム化してしまえば、その時点から機械的なトレーディングシステムに依存することができるようになる。
トレンドフォロアーたちが行っている機械的なトレーディングは、客観的な一連のルールに基づき自動化されている。それらルールは彼らの相場観や哲学から導き出されている。トレーダーたちはそれらトレーディングルールを(多くはコンピュータープログラム化して)厳格に守り、相場を出入りする。機械的トレーディングシステムは、投資判断から感情を排除し、ルールの固守を強いるため、逆に仕事が楽になる。それは規律を強制する。機械的トレーディングシステムでは、自分のルールを破ると破産する可能性がある。
ジョン・W・ヘンリーは裁量的トレーディングのマイナス面についてこう語っている。
「行動的バイアスの影響を受ける可能性のある裁量的トレーダーとは異なり、JWHは規律のある投資プロセスを実践している。JWHメソドロジーは、重要な投資判断を下す条件を数量化することによって、相場に対して判断のバイアスによって揺れることのない一貫した手法を投資家の皆様に提供する」16
投資判断を下すときに少しの裁量も使えないというはきゅうくつすぎると思うかもしれない、ですよね? だって、まったく機械的なモデルに従うだけだったら、どこが「面白い」のかって、ことですよね? だがそもそも本書は面白さを追求しているのではない。儲けるための話をしているのだ。最も成功している古手のトレンドフォロー会社のひとつであるキャンベル・アンド・カンパニーのリサーチ担当ディレクターは、裁量を避けることに関して強い意志を明らかにしている。
「われわれの強みのひとつは裁量を行使せずにモデルに従うことだ。このルールはキャンベルでは石に刻まれている」17
読み進めていけば分かるように、キャンベルのリサーチ担当ディレクターと同様、トレンドフォロアーたちは言葉を慎重かつ熟慮して選ぶ。彼らの言葉がパフォーマンスデータと一致していなかったケースがほとんどなかったことは、わたしたちの励みにもなった。
時代を超越する
トレンドフォローは新しいものではない。この戦略は時代、時代に新世代のトレーダーによって再発見されている。
「トレンドフォロアーのサレム・エイブラハムは、だれが儲けているのか?……という単純な問いから相場の研究を始めた。その答えはトレンドフォロアーであり、そして彼の旅が始まった」19
サレム・エイブラハムのその旅に同行した人間はほとんどいなかった。1990年代後期のドットコム時代、戦略をほとんど持たないたくさんの投資家やトレーダーたちがあまりに大儲けしていたので、トレンドフォロアーもしっかり稼いでいたにもかかわらず「レーダー画面」から消えてしまっていたのだ。
トレンドフォローは、短期トレーディング、最先端テクノロジー、ウォール街の聖杯などとまったく関係がないため、株価バブルの時代にはほとんど見向きもされなかった。ほぼどんな「ロングのみ」のヘッジファンド運用者にでも便乗すれば、あるいはインターネット株を買い持ちするだけで利益を出せるなら、トレンドフォローのような戦略を採用する必要性がどこにあるだろうか?
しかし、バブル崩壊後にトレンドフォロアーたちがどれくらい儲けているかを見れば、トレンドフォローの意義は一気に高まる。以下のチャート(チャート1.1)は、老舗のトレンドフォロー企業3社の仮想的な指数とS&P株式指数を対比している。このチャートでは、ダン・キャピタル・マネジメント、キャンベル・アンド・カンパニー、およびジョン・W・ヘンリー・アンド・カンパニーがひとつの均等加重指数に合成されている。
だが、トレンドフォローの成功に注目が集まっても、それでも懐疑心を捨てきれないでいる投資家が多い。市場は変わったのでトレンドフォローはもう有効でないと言うのだ。彼らの懸念はときおり突発的にマスメディアに流れる「破綻」して顧客の資金をすべて失ってしまったトレンドフォロアーの記事から発していることが多い。だが、たとえ一人のトレンドフォロアーが変わったとしても、トレンドフォローは変わっていない、というのが真実だ。それは大きな違いだ。
変化とトレンドフォローについて考えてみよう。市場は300年前と同じように動く。つまり、市場は常に変化するが、それは現在でも変わっていない。これがトレンドフォローの哲学的な支柱だ。例えば、数年前のドイツ・マルク取引高は相当なものだった。現在ではユーロ取引が取って代わった。それは大きな変化だったが、いつもながらの変化でもあった。あなたに柔軟性があれば市場が変わっても、人生における変化と同様、あなたにとってマイナスになることは必ずしもないのだ。
変化が不可避であることを受け入れることは、トレンドフォローの哲学を理解する第一歩だ。ジョン・W・ヘンリーは変化を理解することのメリットをこう説明している。
「さて、変わらないことは何だ? 変わることだ。だがパフォーマンスが上がらない時期が続くと、ほとんどの投資家は当然のことながらその問題を解決するために何かをやらなければならないと考える。われわれは以前にそういうドローダウンを経験したことがあるので、それが不快なものであっても、必ずしも未来が悪いというシグナルを発しているわけではないことを知っている。そういう期間、ほとんどだれもが異口同音に“市場は変わったのか?”と同じ問いを発する。わたしはいつも真実を答える――“そのとおりだ”と。市場は変化しただけでなく、歴史を通じて、またこの19年間を通じて確実にそうであったように、今後も変化し続けるだろう。トレンドフォローは変化を前提とする。変化をベースにしているのだ」21
市場は上、下、横に動く。市場はトレンドを形成する。市場は流れ、市場は驚かせる。だれもトレンドの開始と終了を予測することはできない。明らかな事実になるまでは、天気とまったく同じだ。だがあなたのトレーディング戦略が変化に適応するように考えられていれば、変化を利用して儲けることができる。
「有効な基本哲学を持っていれば、ものごとは変化するという事実から利益を得ることができる。少なくとも生き抜くことはできる。最低限でも長い期間にわたって生き抜くことはできる。だが有効な基本哲学を持っていなければ成功することはできない。なぜなら変化があなたの首をじわじわと締めていくからだ。予測はできないものだとわたしは分かっている。だからこそトレンドをフォローしようと決めたのだし、だからこそわれわれは成功している。われわれはただトレンドをフォローするだけだ。トレンドがいかに馬鹿げているように見えても、いかに時間がかかり、いかに不合理に見えても、われわれはトレンドをフォローする」――ジョン・W・ヘンリー 22
ヘンリーの言う「有効な基本哲学」とはなんだろうか? 彼が言っているのは、数字で定義、数量化、記述、および測定可能なトレーディング戦略だ。あなたにはあるだろうか? あなたのブローカーにはあるだろうか? あなたのミューチュアルファンドの運用者にはあるだろうか? あなたのイケイケのヘッジファンドはどうか? トレンドフォロアーたちは売買するとき勘に頼らない。やるべきことを心得ている。なぜなら計画のなかに「有効な基本哲学」が組み込まれているからだ。
トレンドフォローは変わったか?
トレンドフォローのめざましい実績を無視して、陳腐だ、お粗末だ、そんな簡単なことでうまくいくはずがない、と言う人がたくさんいる。
「トレンドフォローは変わったのか?」がマネージド・ファンド・アソシエーションのネットワーク2001会議の議題だった。ウェルトン・インベストメント・コーポレーションのCEO兼会長のパトリック・L・ウェルトンは、トレンドフォローが変わったという証拠はないと語った。それを証明するために彼は120個のトレンドフォローモデルを構築した。リバーサルベースのものも、そうでないものもあった。価格のブレイクアウトをベースにしたもの、ボラティリティとバンドスタイルのブレイクアウトをベースにしたものもあった。平均保有期間は2週間から1年の範囲だった。1980年代後期、1990年代初期、および1990年代後期を網羅した各期間に関して、結果はほとんど同じパフォーマンス特性を示していた。
またウェルトンは、トレンドフォローによる収益の源泉が変わったという誤解についても、その見方を裏付ける証拠はないと発言した。基本的な原則からしても、トレンドフォローによる収益の源泉は持続的な市場価格の変化であると指摘した。価格変化に対する人間の反応とその反応を表す情報の伝達には時間がかかり、予期しないコースを走る。ウェルトンは価格変化の大きさと率を確実に予測することはできないとも言っている。それこそがトレンドフォローが有効である理由なのだ。24
ヘッジファンド業界のコンサルタント、バート・コズロフも懐疑的な見方に直面している。以下は彼のプレゼンテーションの抜粋だ。
「1985年2月、ドイツ先物取引所主催のドイツツアーで、何人かのアドバイザーとファンドオペレーターたちがドイツの機関投資家の一団向けにプレゼンテーションを行っていた。そのなかには2社のトレンドベースのトレーダー、キャンベル・アンド・カンパニーとジョン・W・ヘンリー・アンド・カンパニーがいた。質疑応答セッションである男性が立ち上がり“だけどトレンドフォローが死んだというのは真実ではないですか?”と質問した。そのとき司会者はキャンベルとヘンリーの過去のパフォーマンスを示すスライドをもう一度映すように求めた。その司会者は下降部分をたどりながら“ここでトレンドベース・トレーディングの最初の死亡告知が出ました。ここで次のが……、ですが、現在これらトレーダーのパフォーマンスは好転しています。負けている期間があると懐疑論者たちは必ず墓石を建てようとしますが、必ず挽回しています”と答えた。それ以降、キャンベルとJWHは投資家たちに何億ドルも儲けさせている。だから死亡告知を書くのは、今回も間違いかもしれないと思う」26
トレンドフォローに関する新たな死亡告知は、その実践者たちが信じられないほど儲けているにもかかわらず、数年ごとに書かれることになるだろう。ウォール街の認識不足に業を煮やしたジョン・W・ヘンリーは、トレンドフォローを批判する人たちにあるとき次のように反論している。
「市場の根本にトレンドするという性質がないとしたら、20年間にわたって高値で買い、安値で空売りしていて儲けることなどできるだろうか? それにひきかえ、安値で買い高値で売って一定期間成功したのはいいが、投資商品の値動きを完璧に理解したと勘違いしてしまい、結局破産してしまった人たちを毎年のように見てきた」27
トレンドフォロアーたちは、一般的には、その戦略の妥当性に疑問を呈する人たちのことなど気に掛けていない。来る年も来る年もモンスター級の収益を稼ぎ出しているのに、自己弁護のためにエネルギーを使う必要がなぜあるだろうか?